まさかの診断
非常に珍しい症例を経験しました。
ご本人の許可を得たうえで、本人が特定されない形で記したいと思います。
患者さんは20代の女性で、全身の倦怠感と上半身の痛みと手のしびれを主訴に受診されました。
最初は肩こりによるものを疑って星状神経節ブロックを行いましたが、特に大きな変化はありませんでした。
当院受診までに内科や整形外科など複数の病院を回られたようですが、検査では特に問題はなく原因不明とされていたようです。
整形外科での画像診断でも問題なしとされていましたが、一応頸部の脊柱管狭窄症からくる神経症状を疑って、神経のお薬なども試しましたが全く効果はありませんでした。
当院でも炎症反応や甲状腺機能についても血液検査を行いましたが異常なしでした。
お手上げ状態となり、一応生活状況をもう一度確認してみると、食生活に特徴があることが分かりました。
一人暮らしをしていて、料理が手間なのでお米だけで生活しているということでした。
まぁそうは言っても、何かしらおかずは買って食べているのだろうと思ったら、お昼ごはんもお弁当としておにぎり(具なし)持参で、本当にほとんど白米しか食べていないことが分かりました。
かなり極端な食事だとは思いましたが、それでもまさかこの時代にビタミンB1欠乏症の「脚気」がいるとはなかなか思えませんでした。
脚気は、戦前には日本でも年間1~2万人も死者が出ていたような深刻な病気ではあります。ただし、栄養バランスが意識されるようになった今の日本では死者はほとんど見られません。(あまりに想定外でこの時に膝蓋腱反射の検査を失念していたことが悔やまれます)
ほかに打つ手もなかったので、ひとまず身体に悪いことはないだろうとビタミン剤を処方しました。
アルコール依存症でもなく極端な痩せも見られなかったので、半信半疑の状態でした。
2週間後に受診されたとき、症状は完全に消失していました。
まさか本当に「脚気」だったのです。
信じられないほどにきれいさっぱり全く症状はありませんでした。
もはや日本では昔話というか教科書にしか載っていない病気と思っていましたが、悪化すれば最悪死に至ることもある病気でもあり、診断出来て良かったです。(後で調べて分かりましたが、最近若い人の中で脚気が増えているという話もあるようです)
診断さえつけば治療はビタミン剤だけで十分であり、丁寧な問診がいかに大切か思い知りました。